耐熱煉瓦で組んだコークス炉。
温度はたしかに上がったのですが、これがまた使いづらい。
まずはコークスの点火が難関。
燃えるということは「燃料自体を燃える温度まで加熱する」ということでもあるのです。
「ちょっと赤めて叩きたい」というだけで点火から火が安定して叩ける状態になるまで30分はかかる。
その間ずーっと燃料を燃やしっぱなし。
地球温暖化に貢献するもはなはだしい。
そして僕が住んでいるのは伊豆の片田舎。
「コークス」なんてものがホイホイと手に入る都会じゃないんですよ。
ちょっと作業すればすぐ十数キロとか消費するその燃料をいちいち通販で買うこのむなしさ。
やってられるか。
ということで例によって例のごとく作業は本来の目的を離れ、さまよい始めたのでございます。
どこに行くのか、どこまで行くのかものまに屋。ベンベン。<講談師風に
一般人には手に入りにくいコークスの代替燃料として僕の頭に浮かんだのはプロパンガス。
こいつならガス屋で簡単に手に入るし、コークスに比べれば発生熱量というか燃焼エネルギーあたりの単価も比較的お安い。
そこでホームセンターでプロパン用のバーナーを大枚はたいて買ってきて実験してみました。
あくまでもシロウトな僕としては、すべての仕入れはホームセンターが基本なのでございます。
で、結論としては熱量不足で失敗。
日曜大工用に売ってる程度のバーナーじゃ根本的に容量不足なんだよな。<大金はたいて買う前に気づけよ
さてどうするか。
・・・・やっぱり作るしかないか。
まずはヤフオクでプロパンガスボンベにつなぐための圧力調整器を入手。
鉄を溶断するための「LPG溶断用調整器」というもの。5500円で落札。
ノブをひねるだけでガスの圧力を調整できる。
こいつで火力を調節する。
調整器から伸びたガスホースはこれまたホームセンターで入手したワンタッチカプラーへ。
ここをはずせるようにしておかないと作業が終わって片付けるときに難儀する。
カプラーの先は点火・消火時に使うボールコック。
火力の微調整は調整器に任せるとしても、炉に近いところで火のオンオフくらいはできるようにしておかないと何かと不便。
配管用のネジで1/4という規格の物。
その先はこれまたホームセンターで買ってきた10Aという太さの水道管だ。
この先はちょっとややこしい。
文字で説明するのはめんどくさいので写真からなんとか察していただきたい。
ここがガスと空気を混合させる部分。
中央に見える金色のノズルからプロパンガスが吹き出す。
で、流れのスピードが上がると圧力が下がるというベルヌーイの法則というのがありまして。
ガスが勢いよく吹き出すとノズル付近の圧力が下がるので周りの空気が引き込まれてうまいこと混合される、と。
ガスと空気の混合比はノズルの太さと空気取り入れ口の面積の比で決まります。
ガスの圧力が下がるとそれに合わせて引き込む空気の量も減りますから、便利なことにどんなガス圧でも空気とガスの比率は変わらないのです。
で、この混合部の作り方。
配管を分岐させるための「チーズ」という部品が本体になる。
今回はいろいろと試した結果、32Aという太さの物を使用している。
そのチーズにガスの配管を固定するのがこの異形プラグ。
外形32A-内径15Aという物に例の10Aのパイプを貫通させて溶接してしまう。
内径10Aのプラグだとネジがピッタリ合ってしまい奥まで貫通させられない。
ワンサイズ大きい物を使ってガスの配管を奥まで貫通させてしまうのがポイント。
貫通させたガス配管には継ぎ手を付けて、「浮き輪等に空気を入れるため」として売られているエアコンプレッサー用のアタッチメントを付ける。
先端にはM5のタップをたててネジを切っておく。
で、そのネジにねじこんだのがコレ、メインジェットというパーツ。
最近の四輪車では電気仕掛けのインジェクションというシステムに取って代わられて絶滅してしまいましたけど、今でも多くのバイクのエンジンには空気とガソリンを混合するキャブレターという部分があるんです。
そのキャブレターの中でガソリンと空気の混合比を決めているのがこのメインジェット。
中央にはかなり高い精度で加工された穴があけられています。
この穴の径ごとに100番とか120番とかの番号が付けられておりまして、レースやらでセッティングをいじるときには「メインジェットは#125にしてパイロットジェットはちょっとしぼるか・・・」などとやるわけです。
今回の工作でもガスと空気の混合比というのがキモ。
そこであとあとセッティングを変えられるように、そして変えるときにも「120番に上げてみるか」などと管理のしやすいメインジェットを選択してみたわけです。
バイク乗る人間のガレージにならいくらでも転がっているものだしね。
今回の工作ではミクニの#95でとりあえず落ち着きました。
こうやって作った混合部から25Aのパイプをちと伸ばしてバーナー燃焼部へ持って行きます。
とりあえず点火してみようかな。
ふぁいやあああぁぁぁぁっ!!!
こいつは試作途中の物だからいくらか構造が違いますけど、まあ基本は一緒。
ガスを連続して燃やし続けるというのは実は結構難しいものです。
外から見ると止まっているように見えるけど、実際にはタンクから出てくるガスの流れをさかのぼるように炎が燃え移って行っているんです。
たとえるならば「動く歩道」を逆に歩いているようなものなんですね。
その場で止まっているように見えるには動く歩道のスピードと歩くスピードが同じじゃなくちゃいけない。
歩くスピードが遅ければどんどん下流に流されていってしまうし、早ければ上流に上っていってしまう。
どちらもバーナーから火が遠ざかって消えてしまうのです。
この燃焼速度のコントロールというのは現実的には不可能と言われています。
そこで。
上の写真をもう一度見てください。
パイプの先端になにやらついてますね。
パイプの径を変える「異形ジョイント」です。
ここでパイプの径を急激に広げてやることでガスの流れが渦を巻きます。
この渦の中で炎がグルグルと回ることでここが火種となり、次から次へと流れてくる混合ガスに燃え移らせ続けることができるのです。
これを「保炎」といいます。
ガスバーナーを製作するときはかならず押さえなければならない「ツボ」ですので覚えておいてくださいね。
さて、こうしてバーナーは完成しました。
が、さらに問題点が。
1000℃を超える温度ってのは大変なもんなんです。
周囲の気温はたかだか20℃とかそんなもんですよ。
ガスを燃やして温度を上げても周囲にどんどん熱が逃げていってしまうんです。
この温度域での熱の伝わり方はほとんどが光エネルギーによる「輻射」です。
コークスは燃えるときに白い光を出しながら燃える、ということは輻射率が高い。
だけどプロパンガスは燃えるときほとんど光を出しません。つまり輻射率が低いということ。
ガスの燃焼温度がいくら高くても、輻射率が低ければ、せっかくのその高温が対象に伝わらないのです。
ガスの燃焼温度は十分なはずなのに。
鉄を入れてもまったく温度が上がらない。
コークスと同じ耐火レンガ環境では断熱が不足している、ということですね。
ということで資材追加。
フェルトのように見えますが、コレはセラミックファイバーといいます。
1400℃の高温まで耐える断熱材。
港に出入りしている「神奈川漁業資材」さんに無理を言って仕入れてもらいました。
漁業資材屋なのに。
いつも無理言ってすいませんねぇ。関係ない物ばっかり探させて。
で、これをもらってきた廃却ガスボンベの中に敷き詰めます。
カッターでサクサクと切断できるので作業は簡単。
で、側面に穴を開けて先日製作したバーナーのパイプを溶接してしまいます。
これには「保炎部」となる異形ジョイントがついていませんが、かわりにボンベ内側の断熱材を円錐状にくりぬいて保炎部にしてあります。
これで完成。
温度は推定1200℃以上。
これなら充分でしょう。
次回からいよいよ本題の工作に入りますよ。
で、
シロウトがこんなことをしてよいのか?と、ドキドキしながら読んでいる方もあろうかと思うので補足説明。
ガスはそう簡単に爆発なんかしません。
ボンベに火を吸い込んで・・・・なんてことは絶対にありえない。
ガスが燃えるためには酸素がいるのですから。
そしてガスが燃えることができる空気とガスの混合比はかなり狭いのですから。
換気の良い野外では、意図的に狙ってその濃度範囲に混合したガスをさらにこれまた意図的に大量にため込まなければ爆発なんてまずしないのです。
何かあったらタンクの元栓を閉めればたちどころにガスが燃え尽きて火が消える。
灯油なんかの液体燃料やコークスなんかの固形燃料では供給を絶ってもしばらくは燃え続ける。
何かあったときの緊急消火という面でもガスの方がよっぽど安全なのですよ。
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