ものまに屋フィン秋の陣。

材料を変える

さて、多くの好事家のみなさんのおかげでものまに屋フィンもいよいよ熟成の域に入ったようです。

いろんな人に使ってもらうということが僕自身にとってもかなり勉強になりました。

自分一人でテストしているだけではわからなかったことばかり。

正解はけっしてひとつじゃない。しみじみとそう感じておりますです。

まだまだ十分とは言えませんけど、かなりの量のデータが集まりました。

ご協力頂いた好事家のみなさんにはこの場をかりて感謝してみたりみなかったり。




さて、このフィンを手にした多くの方からご質問を受けた[「耐久性」について。

「はかない」とまでおっしゃる方も。

まぁ実際のところそんなに弱くはないのですが。

でも、壊れるかも、折れるかも、などとビクビクしながら使っていたんじゃぁ楽しくなんて泳げるハズがない。

そんなわけで今回、夏のボーナスが入ったのを機に材料と工作法を大幅に見直すことにしました。

ということで手に入れたのがこれ、「プリプレグ」という材料。

普通FRPに使う材料というとカーボンなどの繊維とそれを固める樹脂。それらを別々に用意して、工作時にペタペタと染みこませるわけです。

でもこの「プリプレグ材」には工場出荷時にあらかじめ最適の割合で樹脂が染みこませてあるんです。

手作業でペタペタとやっているとどうしても樹脂が多い所と少ない所、つまり「ムラ」ができるんです。

この「ムラ」があると安定した製品ができない。同じ仕様で作っても微妙なバラツキや目に見えない欠陥ができてしまいやすいんです。

プリプレグならそんな心配をしなくてすむ。

高価なのが玉に傷ですけど、それだけの価値はある、非常に作業のしやすい材料なんです。


今回手配したのはカーボンプリプレグ。カーボン繊維にあらかじめ樹脂を染みこませてあるものです。

この樹脂は硬化前からある程度の硬さがあるので手で触ってもベタベタすることはありません。

加工のときは硬化剤を加えるのではなくてある決まった温度以上に加熱することで硬化させます。

見ての通りシールのように両面に台紙がついているので、油性ペンなどで線を引いて、はさみでチョキチョキと切って加工することができます。

線をひくこともできず、布と同様持ち上げるだけで形がゆがんでしまう生のカーボン繊維にくらべると格段に寸法精度をあげることができるんです。



プリプレグの標準の樹脂は130℃に加熱すると硬化します。でも特殊な設備のないところで130℃っていうのはかなりタイヘン、なので今回は80℃で硬化する特殊なプリプレグを手配しました。

アメリカスカップのヨット建造なんかにも使っている優れモノです。


てなわけでさっそく作業に


さっきも書いた通り、プリプレグ材は両面に保護シートが貼ってあるのでそのまま油性ペンなんかで下書きして設計の寸法にカットします。

生の繊維だとロータリーカッターなんていうちょっと特殊な刃物で切らないと形がゆがんじゃうけど、プリプレグはハサミや普通のカッターで十分加工できます。



カットが終わり、すべてのパーツがそろったら保護シートを剥がしながら型にペタペタと貼っていきます。

この工程では特殊な道具は必要ありません、重ねてはシート越しに指で押え、重ねては押え、そのくりかえし。

硬くしたい所は何枚も重ね、柔らかくしたい所は薄くする。この辺は今までと同じ。






積層が終わったら全体をピールクロスで覆ってバキュームバッグに放り込み、真空をかけます。

真空をかけることで繊維の間や重ね合わせた層の間に残った気泡がジワリジワリと吸い出されていくんですね。

プリプレグの樹脂はかなり粘っこいので気泡の吸い出しにはそうとうの時間がかかります。できることなら一晩以上バキュームをかけたまま放置した方が良いそうです。

硬化剤を混ぜて硬化させるタイプの樹脂だとこの状態でどんどん固まっていってしまうけど、プリプレグはこのままじゃ固まらない。時間的余裕が十分あるのでじっくりと作業ができるのです。



真空はできれば8kPaくらいまでおとしたい。(大気圧は0.1MPa)

そこでエアコン工事用の真空ポンプを用意しました。これなら3kPaくらいまではおとせるハズ。

手動の簡易型ポンプなら数万円で手に入ります。



余談ながら、最近、全体を覆うバキュームバッグには一般に市販されている「布団圧縮袋」を流用してます。

安いし、チャックで密閉できるから密閉用のシーラントテープが大幅に節約できる。真空ポンプにつなぐチューブの取り付け部だけシーラントテープで密閉すればいいんです。



さらに余談ながら、普通は型にワックスなどを塗って、硬化後に製品が型から剥がれやすいようにするんですけど、このワックスって奴は熱に弱いんです。

今回のように加熱して成型する場合だと、加熱中にワックスが流れてしまって型と製品がガッチリはり付いてしまいます。

そこで型剥がれを良くするために製品の両面を「テドラーフィルム」というものでサンドイッチします。

複雑な形状になったらフィルムじゃ対応できないから高温対応の剥離ワックスを使いますけど、今回のような簡単な形状の製品ではテドラーフィルムで十分です。






さて、すべての準備ができたらいよいよ焼き上げます。

この加熱方法についてはかなり悩みました。

80℃に加熱するって意外と難しいモノなんですよ。

火であぶったりしたら温度が上がりすぎてバキュームバッグが溶けてしまう。

ちょうどいい温度で製品全体をまんべんなく加熱する。いや、ほんとタイヘンなコトなんです。




このプリプレグはとにかく80℃以上に約1時間保持すれば固まるわけでして。




たとえばサウナなんてどうだろうか・・・とか。

たしかに90℃くらいはあるけどこんな変なモン持ち込んだら絶対に追い出される。

というかサウナに1時間入ってたら人間の方が焼き上がってしまう。

ので断念。






・・・茹でてみるってのはどうだろうか・・・とか。

これは知人から無理やりたのまれたサーフボードの修理をプリプレグの端切れでやっているところ。

いくら同じFRPだからって足ヒレとサーフボードじゃ全然ちがうんですけどねぇ・・・

樹脂は水分を嫌うのでバキュームバッグの上をさらにビニール袋で覆って鍋でグツグツ。


これはこれとしても。

足ヒレ全部が入るようなデカイ鍋がどこにあるんじゃいっ!!ってことでこれも断念。









結局、細工した段ボール箱に、ヒートガンという大型ドライヤーで熱風を送ることにしました。

加熱するとプリプレグ自体からわずかにガスが発生して真空が落ちるのでポンプはつなぎっぱなし、ときどきシュコシュコと抜いてやります。






で、念のために1時間半くらい熱をかければ作業終了。




寸法精度もバッチリ。

耐久性も以前に比べてずっと良くなりました。

これ以上のモノは今は思いつかないのです。


もどる

inserted by FC2 system