港に消火器が捨てられていたのでパワーアップしてみる

2013/03/31記




港のゴミ置き場に消火器がひとつ捨てられておりました











もったいないのでなんかに利用することにします









まずは分解



上部の封印を破り、キャップを回すとハンドルの部分が丸ごと外れます










容器の中には消火用の粉末



今回の工作ではこれは使用しません

「燃えないゴミ」として処分しましょう

消火用のブツなので燃えてしまうようでは困ります









外したハンドル側

こちらも使わないんですけどね

ハンドルを握りますと、レバーに直結された注射器の針のような物が炭酸ガスを封入した小型のボンベに穴をあけ、内部のガスが消火器本体容器の中に噴き出します

その炭酸ガスの圧力を利用して消火用の粉末を噴射する仕組みになっております








炭酸ガス容器を外してみたところ容器にはすでに穴が開き炭酸ガスが放出された後でした

それで容器内に粉末が残っているということは保管方法が悪かったか何かでこの炭酸ガスがすでに勝手に抜けきっていたものかと推測されます

これではレバーを握ったところで作動するはずがありませんね







消火用粉末はちゃんと残っているし、容器本体の耐圧保証期間も切れていません

この炭酸ガスカートリッジを交換しさえすれば「消火器」として十分再利用が可能なはず

なんですが









それじゃあ面白みってモンがねぇやな







訊けば職場ではすでに新しい消火器を購入してしまったとのこと

ありがたくB級工作に利用させてもらうことにいたしましょう










今回製作しますのは「あちらの業界」で「エグゾーストキャノン」と呼称されているシロモノでございます



耐圧容器の中に蓄えられた圧縮空気を一瞬で放出するというだけのシロモノなのですがいざ作ってみるとそこそこ難しい物なのでございます

容器の出口に一般的なバルブをつないで開放するだけではプシューという音とともに空気がゆっくり抜けていくだけなんですよね

「一瞬で」「一気に」圧力を解放するためにはバルブの径をできるだけ大きくしなければなりません

が、圧力によって加わる力というのはその面積に応じて大きくなりますので断面積の大きなバルブというのは動かすためにものすごく大きな力が必要になってしまうのです

10気圧の圧縮空気をためた容器に断面積10cm2(直径で3センチほど)のバルブを付けたとすれば、そこに加わる力は約100kgf

人間の力でこれをホイッと動かすのは容易なこっちゃありません





そこで、容器内に蓄えられた空気の圧力を利用してこのバルブ自体を動かしてしまおうというのが今回の工作になります



耐圧容器の内側にもうひとつ筒をもうけ、図のような二つのピストンがつながれた構造の物を配置します










図の右側、赤い矢印の所から高圧の空気を注入しますと、その圧力でピストンBが押し出されて左に移動

ロッドでつながれたバルブAを排気口に押しつけて容器全体を密封してくれます









ピストンBに一方向にだけ空気を流すような仕組みを設けておきますと、注入口から送り込まれた空気はピストンBを通り抜け、容器全体に蓄えられます

ここまでが発射準備の段階になりますね








そしていよいよ発射



圧縮空気を送り込んでいた注入口から逆に圧を抜いてやることが作動の引き金になります

内側に設けた筒の内圧が下がることでピストンBが左に引っ張られ、ロッドでつながれたバルブAも同時に急速に左に移動します

これによりごく短時間で容器の出口が大きく開き、蓄えられた圧縮空気が一気に放出されることになるわけです




注意するべきポイントとしてはピストンBの断面積を容器出口Aの断面積よりも大きくしないといけません

圧力×断面積が実際に生じる力になりますから、BとAが同じ大きさだったり、BよりAが大きいとバルブが正しく作動してくれません









という作動原理を踏まえた上で、いよいよ製作に入りましょう



内筒を設置するために、まずは消火器容器の底に穴をあけてしまいます








そして内側に入る筒を製作

今回は精度とか製作の手間を考えて一般配管用のいわゆる「白管」を使用しました

内筒本体は40Aという太さのパイプを使用



後々のメンテナンスのことを考えると消火器本体に分解できる形で組み込みたいわけです

ということで本体との接合部はより太い65Aの異径ニップルを使用しました

これ見てまねして作ろうってくらいの人たちには今更細かい説明は要らんでしょう

こまっけぇことは写真見て察してくれ






で、いよいよキモのピストンの製作



ホームセンターで売ってるM8の全ネジにポリエチレンのまな板を円形に切り出した物をナットで固定

写真の一番左が容器出口をふさぐためのバルブで、丸く切り出した5ミリ厚のゴム板を接着してあります

右はバルブ作動用のピストンで、真ん中はバルブが首を振らないように位置決めをするためのガイドになります

なぜM8の全ネジか

これらのポリエチレン円盤を切り出すのに使う「自在錐」という工具のセンタードリルの径がたいがいφ8mmだからなのさ

切り出された円盤には自在錐の構造上どうしてもセンターに穴が開く

その穴を有効利用してしまえ、と、そういうわけだわな









これが内筒にこんな感じで収まるわけですな

内筒には上の写真で言うところの一番右と真ん中のふたつのピストンがはまることになります








これらの切り出しにはこういう「自在錐」という工具を使います

刃先の形が何種類かありますので切断する素材に応じて使い分けましょう

まな板のようなポリエチレンの厚板を切り出すときは刃先が台形になった物を

ゴム板のような柔らかい物を切り出すときは刃先が鋭角にとがった物を使うとスムーズに作業が進みます








バルブ駆動用のピストンは空気漏れすると効率が下がります

へたすると作動しないことも

ということで外側に溝を掘ってOリングをはめてしまいます

適当な長さに切断した全ネジに、自在錐で切り出したポリエチレン製のピストンを固定し、ボール盤にくわえて回します

横からグラインダを軽く当てて削っていけば任意の深さの丸溝を入れることができます





OリングをはめたピストンBには中央のロッド固定用の穴の他にさらにいくつか穴をあけておきます

これは一方向弁として機能させるための空気の通り道になります





このピストンBに同じ径で切り出したゴム板を重ねてロッドに固定することで一方向弁として機能するようになります

ゴム板の反対側から圧力がかかるときは空気はゴム板を持ち上げて通過してくれますが、逆にゴム板側から圧力がかかるときは空気がゴム板をピストンBに押しつけて空気の通り道をふさいでしまうのです

ちなみにこのすべてのナットはネジロック剤を使って固定してあります

発砲時の衝撃はかなりのものでして、普通に締め込んだだけでは数回の作動で簡単に緩んできます

特に排気口側のナットは発砲時に外れますとものすごい勢いで飛んでいくことになりましてたいそう危険ですのでその固定には十分ご配慮いただきたく

手元にネジロック剤がなければ瞬間接着剤での代用も可能かと思われます
















容器の出口はこんな感じ

ドーナツ型に切り出した3ミリ厚の鉄板に配管用の継ぎ手を溶接

バルブ駆動用のパイプよりも径を細くしないと作動しないため、出口側は若干径を絞ってあります







もともとのネジを利用してこんな感じで接合

こっちも後々のメンテナンスのことを考えて分解できるようにね






後は容器の底に65Aの継ぎ手を溶接して、バルブを組み込んだ内筒ユニットをねじ込めば完成











とりあえず作動テスト



圧縮空気注入に使った配管を大気開放することで作動します










さて、これで大量の圧縮空気を一気に放出するユニットが完成いたしました

あとはそれをどう利用するか

まず本体出口の形状を変更します



先に行くにつれ少しずつ直径が大きくなる円錐状のパイプを接続

一見するとラバールノズル風

ロケットのエンジンなんかでおなじみのあの形状ですね




ただの筒状では理屈上どんなに容器内圧を高めても排気速度が音速を越えることはできません

そこで出口流路の断面積をラッパ状に広げてやることで高圧のガスが膨張しながらノズルを通過し、速度が上がる・・・はずなのですが実際のところどうなんでしょうね?

この工作くらいの圧力で、はたしてラバールノズルの効果があるのか無いのか





実は今回この形状にしたのは排気の速度を上げるためではなく、「渦輪」を生成させるためです



「渦輪」

有名なところでは段ボール箱に穴をあけ、側面をポンと叩いて遊ぶ「空気砲」ってのがありますよね

空気がドーナツ状に旋回しながら流れることで静止した周囲の空気との摩擦ロスを小さくし、安定して遠くまで到達するわけです





ダイビングの減圧停止中の暇つぶしなんかによくやるバブルリングもこの「渦輪」の一種

やってみればわかるけど、波や流れがあっては上手くいかないし口から放出する空気も均一にボワッと出さないと上手くいかない

この一枚の写真撮るのにかなり苦労した覚えがあるぞ十数年前の話だけどな






この渦輪を生成させるためには、扇風機のように空気が途切れずに流れ続ける連続した流れではいけませんでして

ポンッと瞬間的に空気を押し出してすぐに止めてやらないといけない

流しっぱなしじゃいかんのです

静止した大気中に、直径と長さの比率がある一定の範囲内にある円柱状の空気の塊を放出させますと、そこに「渦輪」と呼ばれるドーナツ状の流れが発生します

一般的にはその直径と長さの比率は1:4から1:7程度が良いのだとか



今回製作したこのエグゾーストキャノンではだいたい50リットルくらいの空気の塊を放出しますので、それを渦輪ができる寸法比率におさめるには出口の直径をだいたい25センチくらいにしないといけない

本体容器出口の直径は30ミリほどですから、筒先をテーパー状にして直径250ミリまで広げてやっているわけです





で、さらにその先にもうひと工夫



ある程度の寸法まで円錐状に流路を広げた後、流路を再び絞り込みました

これをやらないまま渦輪の生成に成功している「ブツ」もネット上でたくさん見かけましたけど、僕が作ったこの「ブツ」ではテーパー形状のままでは渦輪は生成できませんでした

今回はこの円錐を頂角約10°ほどで製作したのですが、どうやらこの角度が大きすぎたみたいです




こういう円錐型のパイプでは空気は壁に沿って流れやすく、中央はあまり空気が流れません

ためしに台所のジョウゴを口にくわえてロウソクを吹き消してみるが良いさ

ジョウゴをまっすぐロウソクに向けるといくら一所懸命吹いてもロウソクは消えない

ジョウゴのへりをロウソクに向けると簡単に消える



つまりこのようなラッパ型のパイプの中では空気の流れが均一になりにくいってこと

渦輪の生成には均一な空気の流れが必要になりますのでこれでは具合が悪い

ということで円錐の最後で再び流路を絞り込み、流れを整えました



円錐の頂角を5°くらいまで絞り込めばあるいは出口の絞り込みは必要なくなるかもしれませんが

そのかわり必要な口径まで広げるのにものすごい長さが必要になってしまう



そんなこんなで今回はこのような形になったわけです






渦輪を打ち出すのですからやはり照準器も必要です



光学照準器をぬかりなく搭載

ビニールテープ固定というあたり、抜かりまくってる気もするがこまっけぇことは気にしない

雰囲気よ、雰囲気








で、最終的にはこうなりました



渦輪ってのは英語でvortex

ボルテックスジェネレータってのは「渦輪を作る装置」ってことね



風が吹く野外ではやはり渦輪の安定が悪く、遠くまで届きにくい模様

無風状態なら十数mくらいは届きそうな感じ



でんじろう先生みたいに煙を使って渦輪を可視化したかったんだけど、なんどやっても上手くいかない

流れが速すぎて煙がついていけないのかなんなのか








インパルスアタッチメントってのはアレ

消防庁の装備で「インパルス」てのがありましてね

このエグゾーストキャノンと同じような機構で水を霧状に打ち出し、気化熱で消火するという装備

今回は適当に作った筒先に水を入れた風船を詰めて撃ち出しております

発射の衝撃で風船が割れ、細かい霧状になって到達することで火を消してくれる、と

この動画ではガソリンとオイルの混合物を燃やしておりますがちゃんと消火できております

意外と高性能

本家インパルスと違って発射までの準備に時間がかかるから実用性は皆無だけどな








ちなみにアメリカじゃこれの超大型のやつでカボチャをどこまで飛ばせるかを競うなんていうイベントがあったりしますが

圧縮空気で物体を打ち出す機構は日本では銃刀法に完全にひっかかります

こいつで何か撃ち出したらすごいことになるんじゃん?なんてのは思ってもやってはいけません絶対に





海外じゃ圧縮空気じゃなくてプロパンとかの可燃ガスの爆発エネルギーを使う工作の方が多いみたいですね

ジャガイモを発射するのがなぜか一般的

今回製作したこいつの消火器容器の部分をただの筒で作り、中に空気と可燃ガスの混合物を充填、電子ライターとかの圧電素子で火花を飛ばして爆発させる、と

ガス爆発式は排気バルブを駆動させたりする必要が無く、工作自体は非常に簡単になりますが、これも日本でやってはいけません








だがしかし

水を撃ち出してる時点で僕だってもうすでにちょっとヤバそうな気がしないでもない

どうなんだろそのへん

法律的知識のある人、補足プリーズ

お縄になるようなら速攻で動画削除して逃亡せにゃならんから早めに頼む








それはさておき

ま、「おもしろい」以上の意味はまったくないんだけどね、コレ

雰囲気よ、雰囲気


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