警告
この記事のマネをして失敗したとかそういう理由で苦情メールを送りつけるような方は、この記事を読む前に、この時点で即刻お帰りください。
ホントにいいのね?
昔々、まだゴムの成形技術が今ほど良くなかった時代のお話。
東伊豆のとある海岸にあるダイビング学校では、日々たくさんの若者がプールで泳ぎまくっておりました。
その当時は「エル」というラバー製のロングフィンがめっぽう速いという評判で、みんなそれを使っておりました。
ただ、この「エル」はそのお粗末な成形のために右足と左足で硬さが違うなんてコトはアタリマエ。そんなわけで、そのダイビング学校では100本以上の「エル」を買い込み、硬さの近いモノを組み合わせてナンバーをつけて使っておりました。
その当時に流行ったのがこれ、フィン削り。
自分の好みに合わせてフィンを削ってしまうというもの。
水の中でどうにもフィンが重い、とか思っている方は思い切って挑戦してみてはいかがでしょうか。
自分のフィンの問題点を把握する。
敵を知り、己を知れば百戦危うからず。
まずは自分のフィンを手にしてグイッと曲げてみましょう。
たとえばロングフィンでは一番普及していると思われるGARA2000。
↑すまんのぅ、手抜きの画で。
プラスティックの1枚板なだけに、力をかけるとブーツポケットに近い根本側がペコッと折れ曲がってしまう。
つまりここが弱い、と。
じゃ、今度は今話題の例のアレ、ワープフィン。
今回は手元にあった「黒ワープ」で話を進めましょう。
こいつはかなり良いセンいってるんですけどねぇ。
惜しいかな、先端から10センチくらいのところでいきなりしなるのがどうにも気になってしまうわけで。
つまりここの手前が硬すぎる、ということですね。
自分のフィンのどこが強度的に弱いのか、ということを把握するのは大切なことです。
ただ闇雲にフィンを削ってもゴミの山を増やすだけですからね。
さて、こんな感じで今手元にあるフィンをグイグイ曲げまくるとこんなグラフになるわけで。
ほとんどのフィンは根本から先端まで同じ硬さの1枚板、だったりする。
特に「カーボン製」を謳ってるフィンにはその傾向が強いようです。<その方が作るのは簡単だからね。
「C4」の場合は別の意味で極端。
先端に向けて柔らかくしていくというその姿勢は評価できるのですが、中間域に向けて一気に柔らかくしすぎなんですね、これが。
その割に先端から20cmくらいはまったく同じ硬さだったりする。
個人的見解ではC4は先端20cmくらいをバッサリと切り落として使うのが良いかと思ったり思わなかったり。
本来ならば「C4」と「一般のプラスティックフィン」の中間、図に示したミューあたりのラインが理想なわけで。
まぁ、この図に示したラインはあくまで「硬さのイメージ」なんですがね。<数値で出すとちょっとややこしくなるからね。
実際にはこのラインの形がわずかに変わるだけでフィーリングは激変します。
自作の「ものまに屋フィン」でもこのラインの形にはそうとうこだわりました。
「削る」とは「バランスを取る」ということ。
自分のフィンの特性を把握したら、次はそのフィンの短所をカバーすることを考えましょう。
つまり自分のフィンの中で極端に硬い部分を弱くしてやろうということです。
補強するのは難しいけど弱くするのは以外と簡単。<削れ削れ。
さて、ところでみなさん、音楽は聴きますか?
オーディオなんてモノに凝ったことはありますか?
最近のラジカセにはイコライザーなんてモノが付いてますね。
「うーん、低音域をもっと強調したいなぁ・・・」なんてときはイコライザーでグイッとな。
便利なもんです。
でもね、「高音域もきわだたせて・・・・でもボーカルもハッキリとさせて・・・・」なんて欲張り始めると結局は全部の周波数帯を上げるコトになっちゃう。<ボリューム上げるのと同じ。
それじゃイコライザーの意味が無いわけで。
フィン削りも一緒。
あそこも、ここも、ってやり始めると間違いなく失敗します。
自分のフィンで一番硬いところ、ネックになっているところを正確に見極めて、そこを削り、フィン全体でのバランスを整える。それが目的。
ただ削れば良いってなモンではありませんのでその辺ご注意を。
いよいよ実践。
では、自分のフィンの特性を十分理解した上で良く切れるカッターナイフを手に、いよいよ切り込むコトにしようではありませんか。
今回は手元にあるワープフィン(黒)を削ってみることにしましょう。
このフィンの場合は前述のとおりフィン先端から10センチくらいから25センチくらいまでの剛性が高すぎるのでここを弱くします。
で、問題になるのは「どこをどう削るのか」ということ。
こういう「曲げ」が加わる1枚板の場合、その堅さは「幅」に比例し、「厚さ」の3乗に比例します。
つまり幅が半分になれば硬さも半分になるし、厚さが半分になると硬さは1/8になってしまうということ。
これをふまえて考えると削るべきポイントが当然見えてくるわけでして。
ワープの場合、ブレードの両側にキールがありまして。
この側面を削り取るのが良いようです。
3乗で効いてくるというその特性上、キールの「峰」を削ってしまうと効き過ぎるというか、ちょっとの削りすぎが致命傷になりかねないのです。
ということで、
この辺の側面を削ってしまいましょう。
薄くそぐように1ミリくらい削り取るが良いかと。
ブレードの1カ所で集中してしなるような場所が無くなるように、ときどき手で曲げてしなりを確認しながら少しずつ削っていきましょう。
これだけで水の掴みが格段に良くなるはず。
試しに知人の黒ワープを数本削ったけど、いずれも好評、デス。
赤ワープはもともとしなりの集中するような場所が無かっただけに削ってもそれほどフィールは変わりませんでした。
他の色は手元に無いこともあって試していません。
水の中で重く感じるからといってブレードの根本側を削ってしまうのは大きな間違いです。
GARAなんかに至ってはもともと根本が弱いのに、水の中で重いとか言ってさらに根本を削ってしまったら最悪の結果を迎えます。
「エル削り」が流行った当時もその主流は「ブレード付け根のキールを削ってしまう」というモノでした。
こういう考え方のベースにあるのは「硬い」「柔らかい」論だと思うのですがね。<重いなら柔らかくすればいい、みたいな。
でもね、こういった「付け根ヨワヨワフィン」はたしかに柔らかいような気はしますけど、水の中ではさらに重さ倍増。使い物にはならないんです。
こうしてゴミ箱に消えた「える」が何本あったことか・・・(遠い目)
てなわけで、今現在市場に出回っているフィンでブレードの付け根を削る必要があるフィンなんてまずありません。<根本ってのは一番頑丈じゃなきゃいけないところ。
ラバーフィンに関しては中間域を、ガラ2000なんかのプラスティックフィンは中間域から先端にかけてを削ってしまうというのが基本的な方向性になります。まぁ、こういうプラスティックフィンはキールがありませんから、ブレード自体を薄く削り込むしかないのですがね。
「あのフィンは硬い」だの「あれは柔らかい」だのという議論をする前に、この「硬さのバランス」ってやつにこだわった方が良いのではないだろうか、と思う今日この頃。
ホント、「バランス」ってのは「硬い」「柔らかい」以上にフィールに効いてきますぜ。
最後に改めて警告。
この記事を元に見よう見まねで削ってあなたの大切なフィンがゴミになっても当店では一切責任は負えません。
「うまくいかなかったぞ。どうしてくれるんだ。」なんて文句を言うような方は絶対に挑戦しないでくださいね。
やるときは自分自身ですべてのリスクを負う覚悟で臨んでください。
てか、僕だってこういうのできるようになるまでにはさんざん失敗してゴミの山を築いているわけだし。<なんでもかんでも「おんぶにだっこ」じゃ得られるモノは少ないってコトさ。
でも、こういうことを自分の手で試してみることで得られるモノは大きいと思う。
「その先」を目指している方にはぜひお薦めしたい。
2004/9/13追記
>ラバーフィンに関しては中間域を、ガラ2000なんかのプラスティックフィンは中間域から先端にかけてを削ってしまうというのが基本的な方向性になります。まぁ、こういうプラスティックフィンはキールがありませんから、ブレード自体を薄く削り込むしかないのですがね。
なんてことを上の記事内で書いたのはもう何年も前になりますが。
ようやく出ました、このアイデアを実践した製品が。
フランスの器材メーカー「OMER」のBAT30というモデルです。
基本形状は平面のプラスティック一枚板。
これでは根本に対し先端の方が硬すぎて、根本からベコベコ折れ曲がる腰砕けフィンになってしまうのは明白です。
そこでブレード裏面にちょっと小細工。
CNCフライス盤という工作機械で中間から先端にかけてを薄く削り込んであるんです。
しかも先端に向けてしだいに薄く。
この削り込みのおかげでブレードの剛性バランスはかなり良くなってます。
デザイン優先の凸凹をブレード表面につけるよりはよっぽど気の利いた仕事だと思います。
「水の流れを云々」とかいって妙な凸凹をブレードにつける、それだけで曲げの外力に対する剛性計算が格段に面倒になる。
というか水の力が加わったときにブレードがどんな曲線を描いてたわむかなんてそんな計算、メーカーではやってないと思う、たぶん。
「ロボットで泳ぎをシミュレートし・・・・」なんてうたい文句のメーカーもあるけど、その「ロボット」がどんなフォームで泳いでいるのか。その辺は非常に興味がありますな。
ロボットで実験するから「間違いない」のか?
コンピューターで計算したから「間違いない」のか?
違うだろ。
ロボットにどういう泳ぎをさせるのかという、そのプログラムがお粗末だったとしたら、まったく泳げないシロートさんにモニターしてもらってるのと何も変わらない。
計算に使う「仮定」や「条件」の設定がお粗末だったら、スーパーコンピューターで計算したところでたいした結果はでない。
結局はそれらを扱う人間のセンスの問題さね。
なんて偉そうなゴタクはおいといて。
ブレードの各部で剛性を変えていくという設計思想で作られたこのフィン。
もうちょっとここがこうなればなぁ・・・と思うところはありますが、結構好みの味付けです。
泳ぎやすいフィンですね。