振動翼は次世代フィンの夢を見るか。

グレイのパラドックス

昔、ある生物学者がふと考えました。大海原を自由に泳ぎ回るイルカやマグロ、あいつらはなんであんなに速く泳げるのだろうか、と。

観察してみると、イルカは20ノット(時速36km)近く、マグロにいたってはなんと40ノット(時速72km)なんてベラボーなスピードで水中をかっ飛んでいく。


で、その体の大きさなんかから、やつらが泳ぐときに水から受けている抵抗の大きさを計算してみると、なにやら奇妙なコトになってしまった。

やつらは、その筋肉が発生するであろうパワーと泳ぐときに水から受ける抵抗の両者から推測される最高速度をはるかに上回るスピードで泳ぎ回っているのだ。

あの体であのベラボーなスピードを出して泳ぎ回るためには、なんと人間様の7倍以上の出力を発生する高性能筋肉を内蔵してなきゃならないってな計算になってしまうらしい。

人間だって動物だって同じような仕組みの筋肉で動いている。その筋肉の量には違いがあっても、性能には7倍なんて差はないはず。これはおかしいぞ、と。


これが「グレイのパラドックス」

たくさんの研究者がこの謎を解明しようと研究を続けているが、結局今でもよくわかっていないらしい。


水の中を進むには

で、このグレイのパラドックスを解こうとするなかで、いろんなことがわかってきたわけで。

やつらの推進の方法についてなんかもいろいろと。


たとえば、風の流れの中に板を置く。

で、この板をちょっと傾けると浮き上がるような力が発生する。これが飛行機が飛ぶ原理、「揚力」。


で、水中でも同じように、翼のような形をしたヒレを適当な角度にコントロールしながら上下にパタパタすると、これにもやっぱり揚力が発生する。

イルカやマグロはこの「振動する翼」で水中を飛んでいるのだ。


思いっきり簡略化したけど、これが「振動翼理論」ってやつ。

詳しく書いていると眠くなってきてしまうので興味のある人はご自分で調べていただきたい。

(参考文献:イルカに学ぶ流体力学・永井實著)


作ってみよう

てなわけでさっそく作ってみた。

名付けて「振動翼フィン」<そのままやんけ。

泳ぎ方はモノフィンと一緒。



材料はホームセンターで買ってきた200円の材木である。

ものの本によると、同じ揚力を発生する同じ面積の翼なら、より細長い翼の方が効率が良いらしい。グライダーの翼みたいなもんだな。

というわけで、思いっきり細長くしてみた。幅は1.8mもあったりする。

ていうか、こんなガチガチの剛体翼でモノフィンみたいな形してたらとても振り回せる気がしない。

断面はカンナで削ってちゃんと翼断面っぽくしてある。

で、その翼を強引にブーツポケットにくくりつけてしまう。網修理用の糸で縛り付けてあるあたりが定置網漁師っぽくてよかろ?



こんなんではたして進むのだろうか。

とか思ってたら意外と進む。こりゃ不思議だ。

証拠のムービーでも載せようかと思ったけど重たいからやめやめ。


目撃者、もとい見物人もびっくり、というかかなりあきれ顔。

「なんか変なモンが港の中を泳いでるな・・・ああ、またあいつか・・・」というのが誰の顔にもあらわれている。

・・・ほっといてくれ。




しかしまぁ、かなりテキトウに作った割にはちゃんと進んでびっくりだったのだが、でもそれ以上の物ではないな。残念ながら。

もっとちゃんと作り込めば未来はあるかもしれないけど、現時点では足ヒレやめてこれにしようってな気にはならない。絶対。

そもそもこんな幅2m近くもあるようなもんで泳ぎ回ったらはた迷惑なことこのうえなし。なのだ。



ただ、モノフィンの進化形としての可能性は十分あると思う。

単純な一枚板よりは翼のような断面を持つフィンの方が推進効率は格段によいのだそうだ。

FRPの一枚板が主流の現在のモノフィンも、材料や加工方法の問題が解決していけば、いずれは翼型断面を持つようになっていくのではないだろうか。

現にフィンスイミングの世界で、モノフィンの表面に何やら貼り付けて断面を翼型にするアイテムが効果を発揮しているとかいないとか。現在のルールで競技に使えるのかどうかまでは訊かんかったけどね。




ま、そんなわけで。

このネタはたいしたオチもないままこれで終わりなのである。


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