天高く馬肥ゆる秋
まさしく溶接日和というやつでございます
いつの間にか夏は終わってしまいましたね
それにともない温泉丸では問題がひとつ発生しております
温泉丸にぶら下げた、なんぶ風鈴
これからいよいよ寒くなっていこうかってのに風鈴はまずいでしょ
冷たい北風吹きすさぶ中、ちり〜ん、とか
ダメだ、ぜんぜんダメだ
ということで何か作りましょう
せっかく新しい溶接機も手に入れたことだし ←「使いたいだけじゃん」なんて指摘はしないのがオトナってもんです
ということで目をつけたのがこれ
まずは音を聞いてもらいましょう こちら
これは水琴窟というものだそうです
詳しいことはリンク先のwikipediaを見ていただきましょう。(この写真と、下の構造図はwikipediaからお借りしております)
この水琴窟というのは茶室の入り口で手を洗い清める「つくばい」の排水設備などに併設されていることが多いそうです
手を洗った水が流れ落ちるときに音が鳴る、と
どういう仕組みなのかってぇとこんなカンジ
地中に水瓶を伏せた状態で埋め、一番上に小さな穴をあけておきます
この穴から落ちた水が立てる「ポチャン」という音が水瓶の内部で反響して弦のような音を立てる、と
で、これをどうやって作るかですが
水琴窟の仕組みの説明を読んで僕の頭に最初に浮かんだのがコレ
今はもうほとんど絶滅してしまった2ストロークエンジン
現在主流の4ストロークエンジンにくらべて構造が簡単で重量が軽く、パワーが出しやすいということでスポーツ系のバイクの主流でした
が、その反面、排気ガスが汚いとかその辺の環境的な問題の影響で今ではほとんど絶滅寸前
で、この2ストロークエンジンでは、排気ガスをサイレンサーに送るパイプの途中が、写真の赤い矢印で示したように一度太くなってまた絞られていることが多いです
これを排気チャンバーといいまして、立派なパワーアップパーツだったりします
詳しいことはまたしてもwikipediaを参照してもらうとして
2ストロークエンジンには4ストロークエンジンには当然のように付いている排気バルブや吸気バルブってものが無いんですよ
シリンダ自体に吸気の穴と排気の穴があけられていて、その中を上下するピストン自身がバルブ代わりとなってポートを開閉するようになっています
ピストンがバルブ代わりなのですから、当然、排気と吸気のポートをそれぞれ独立に開け閉めはできません
爆発が終わって排気ガスが排気ポートから排出されるときには同時に吸気ポートが開いて反対側から新しいガスが流れ込んでくる
排気ポートも吸気ポートも同時に開いているのですから、シリンダを素通りしてそのまま排気管に流れていってしまう未燃焼ガスも出てくるわけです
それを防いで充填効率を上げるのがチャンバーの役目
これもwikipediaからの借り物ですが、右側がエンジンだと思ってください
エンジンから吐き出されたガスはまだ充分な圧力のエネルギーを持っています
このガスが流れるパイプが急に太くなると圧力が一気に下がり、後続のガスを引っ張り出す手助けをしてくれます
ですが、調子に乗って引っ張りすぎるとシリンダ内の排気ガスだけでなく、まだ燃えてない新しいガスまで吸い出してしまいます
そこである程度引っ張ったところで今度はパイプを絞ってやる
パイプが急に細くなるとそこで圧力が急上昇します
すると何が起こるか
圧力の波が反射するんですね
排気ガスの吸い出しが終わって、さあ新しいガスまで吸い出されようかっていうタイミングに合わせて、チャンバーで反射された圧力波が排気ポートに戻ってくる
その圧力波が排気ポートを塞いでくれるおかげで未燃焼ガスがシリンダを素通りしてしまうのが防げる、ということです
ちょっと話がわき道にそれすぎた感がありますが
何が言いたいのかってぇと
2ストの排気チャンバーには圧力波を反射する機能がある、ということ
「圧力波」ってなんですか?
「音」ですよね
排気の圧力波が反射できるなら、音だって反射できるんじゃないでしょうか
パイプの両端を円錐形に絞った形状のものを作れば、その中で音が反響してくれるのではないでしょうか
そんなわけで前置きが長くなりましたがとりあえず製作にとりかかりましょう
鋼材屋から1mm厚のステンレス板を入手
安くあげるためにできるだけ薄い板でなんとか
で、これを先月手に入れたエアプラズマ切断機で切断
溶接機と同じ原理で火花(アーク)を飛ばして素材を溶かし、その溶けた金属をエアで吹き飛ばしてしまう仕組み
グラインダでチマチマ切っていたら日が暮れそうな量でもサクサクと
いやもう快適ったらないね
こんなカンジで素材を用意
で、溶接
1mmなんていう薄い板の溶接ってぇと、普通の被覆アーク溶接機じゃかなり大変
上手にやらないとあっという間に大穴があいてしまいます
そこで登場するのがこれもまた先月導入したばかりのTIG溶接機
高かっただけのことはありますね
溶け込みの細かなコントロールも自由自在
ステキだ
このTIG溶接機は溶けた金属が酸素に触れて酸化してしまうのを防ぐために、電極の周囲から不活性ガスを流して溶接部を酸素からシールドするようになっています
街のガス屋に行ってシールド用のアルゴンガスについて相談
「高圧ガスのボンベは耐圧検査とかあるから個人で所有するのは大変だよ。タンクはウチのを貸してあげるから中身のガス代だけ払ってくれればいいよ」
なんともありがたいお言葉
是非ともそのように
「じゃ、コレ。持ってって良いよ」
倉庫から出てきたアルゴンガスボンベがこちら
重量60kg
いや個人の趣味の工作にしてはずいぶんと大きすぎるシロモノが出てきたもんですな
だんだん自分が何屋かわからなくなってきつつあるものまに屋
どこへ行くのか
どこまで行くのか
る〜る〜る〜
で、とりあえず本体が完成
パイプの両側を円錐形に絞った形
底部に水を溜め、水滴を落としてみます
ここでまたひとつ問題が発生
音が小さい
激しく小さい
調べてみるとどうやら落とす水滴の形状に問題があるらしい
ということで、みなさんもお風呂で実験してみてください
鉛筆や指先のように尖った物から落ちる水滴と、手のひらのように平らなものから落ちる水滴
音が違うんですよ
ということで話はまたしても本筋を離れてさまよいはじめます
水面に水滴が落ちるとなんで音がするんでしょうか?
どうでもよさそうなことですが、調べてみると意外と多くの人が興味をもって取り組んでいる研究課題のようです
今じゃどこの家庭にも一台はあろうかっていうインクジェットプリンタだって、インクを粒にして紙に吹き付けて印刷しているわけで
どういう形状のノズルからどういう風に液滴を飛ばせばよいか、なんてのは印刷の品質にも直接つながってくる重要なファクター
たかが水滴、たかが水音とあなどってはいけない
ということでその辺をちょっとご紹介させていただきましょう
水面に水滴を落としたとき、そこで何が起こっているのか
まず平らな水面に水滴が落ちると水面がお椀状にヘコみますね
凹んだ水面は元に戻ろうとします
低くなったところに周囲の水が勢いよく集まってきます
勢いよく集まってくるのですから急には止まれない
周囲から集まってきた水がぶつかりあったところで今度は上に持ち上がります
持ち上がった水の柱は重力に負けて下がっていく
こうして水面が振動するわけです
が、これだけではほとんど音がしないんです
今書いたのは指先のように尖ったものから落ちた水滴による水面の動き
海にたとえるなら、べた凪の日の波打ち際
チャポチャポ揺れるだけでたいした音はしない
先が尖っていると水がスムーズに離れやすいわけです
落ちる水はひとつの塊になっているので上に書いたように単純に水面を揺らすだけ
じゃ、平らなものからはがれ落ちる水滴はってぇと
水の切れが悪いわけです
落ちる水がツツ〜ッと「橋」をつくりながら伸びていって、その「橋」がプチッと切れる
一番最初のメインの水滴が落ちていくと、それまで「橋」をつくっていた部分の水がその後を追いかけて小さな水滴となって連続して落ちていく
平らなものからたれる水滴というのは、ひとつずつの独立した水滴ではなくて、大きなメインの水滴を小さな水滴が連なって追いかけていくカルガモ親子状態の集団ということなんですね
で、これが水面に落ちると、まずメインのデカい水滴が水面にくぼみをつくります
そのくぼみの底を後続の小さい水滴がさらに掘り下げます
水滴の列が終わると今度はそのくぼみを元に戻そうと、周囲の水が一気に押し寄せてきます
くぼみの高さがある限界点を越えると、海岸に打ち寄せる時化の荒波と同じように「崩れ」ながら押し寄せるようになります
凪の日の波よりも時化の日の崩れる波の方が大きい音がするのと一緒
崩れながらふさがっていくくぼみの方が大きい音を立ててくれるわけです
ということで大きい音を立てたければ先が平らで水の切れが悪いものからジワッと落とすのがコツ
で、例によっていろいろ試しました
あちらをたてればこちらがたたず
結局こんな形状に落ち着きました
水が流れてくる細いパイプの先端に2枚の板がわずかに隙間を空けて並んでいるという形状
隙間は下に行くほど広くなっています
板の端がスパッと終わっているとそこで水切れが良くなってしまうので先端はくるっとカールさせて
例によって思いつくまま手当たり次第に十数種類作ってみましたけど、今回作ったものの中ではこれが一番良さそうです
で、本日ようやく設置
2007年10月27日現在、台風20号が接近中だけどな
わはは
「いつ発射するんですか?」とか訊くなよ
さて、こうして設置された水琴ですが
もともとの音源が水面に落ちるちっぽけな水滴の微々たるエネルギーであるからして
何をどうしたってししおどしのような派手な音量にはなりません
温泉丸全体に響き渡るような音量なんてとてもとても
波の音、冷却ユニットのシャワーの音、風の音、ダイバーさん達の話し声
ものまに屋の自宅の工房周りとは違い、温泉丸周りは思った以上にいろんな音にあふれています
ちっぽけな水滴の奏でる反響音は、たぶん耳を澄まして近寄らなければ気がつくことすらできないでしょう
暖かい湯で冷えた体を温めながら、海の中で見てきたばかりのエキサイティングな光景についてあれやこれやと語り合うのも良いものですが
時には温泉丸の片隅でそっとメロディーを奏でているちっぽけな水滴たちの声に耳を澄ましてみるというのもまた一興かと存じます
さて、明日は何を作りましょうかね