2021 ミニろく最終戦 ショートサーキット

2021/12/25記


2021年12月18日、夕方

久しぶりに御殿場の市営キャンプ場にやってまいりました

富士スピードウェイ、ミニバイク6時間耐久レースでございます



レース当日の朝は早いので移動時間短縮のため、前日はここに泊まるのが恒例となっております



天気予報は晴れ、風弱し

放射冷却で明け方かなりの冷え込みが予想されておりました

予想気温はマイナス3℃



これはまずい

数年前に導入したGSX-R125は水冷エンジンです

レースと言いますか、サーキット走行では不凍液の使用が禁止されているのです

転倒などのトラブルで不凍液が路面にこぼれますと、ものすごく滑って危ないのです

当然我々の車両も不凍液は使用しておりません

ということは下手すりゃ凍ります

水が凍ると体積が増えます

で、エンジンというかシリンダーが割れる事があるんです

レース用車両は使わないときは冷却水を抜いておくのが基本

かといって翌日レースなのに冷却水が空っぽというのもね


ということで、シリンダーのそばに束ねた使い捨てカイロをおきまして凍結対策



そんなばかなという方もいらっしゃるかと思いますが、少なくともうちのチームの者だけでも過去数回凍結でシリンダーを割っておりますので用心に越したことはありません





明けて翌朝



快晴








予報通りかなり冷え込んだようで窓ガラスなどは凍結しておりました

早めに起きて車のエンジンをかけ、暖房を入れて車内を暖めます


私個人は漁師という職業柄毎朝4時だの2時だのに起床する習慣が身についてまして

かなり早い時間に目が覚めたのですが

うちのチームの他の連中はと言いますと、前の晩にうっかり夜ふかしをしてしまいまして朝起きることができず、会場である富士スピードウェイにはかなりギリギリで到着



遅刻ギリギリ

車に積んだレース車両を温めるために暖房ガンガンで走ってきましたならば

富士スピードウェイの入り口にて

「検温お願いしまーす!」

おでこに赤外線放射温度計をピッ

体温38.5℃

え?




暖房で吹き出す温風を顔に浴び続けてここまで運転してきたからなあ

係員に事情を説明し、再検温で無事ゲート通過

いや危なかったわ






なんとか潜り込んだ会場で準備開始



タイヤウォーマーをかけて温めたのですが、路面温度が低すぎました

30分間の練習走行を終えて帰ってきたらタイヤが冷え切っていて熱が入るどころの話じゃない

冷却水温も50℃ちょっととこのエンジンにしては低すぎ

ラジエーターにガムテープを2列ほど貼って空気に当たる面積を減らして調整




タイヤに熱が入らない問題についてはレースの運営の方で気を遣ってくれまして、ローリングスタートに変更になりました



普段はレーススタートと同時に競争開始なんですけども、路面温度が低すぎてタイヤが温まりきっていないところで競争始めさせると転倒車両が多数出る可能性があるわけです

ということでスタートから数周間は追い越し禁止、セーフティーカーの先導で安全な速度で走行し、タイヤが温まったところで本格的に競争開始、という流れです




スタートライダーはいつもどおりNORY君

参加申し込み順のグリッドからのスタートで26番手から

今回はメンバーの仕事の都合などでライダー3人での参加

1走行40分間を各自3走ずつ

NORY君最初の40分で総合順位を8位まで上げて第2ライダー舟超氏に交代

このレースではエンジンの型式や排気量が違ういろいろなクラスの車両が一緒に走ります

我々が参加しているのは4スト125ccのインジェクション車クラス

他に85ccの2ストクラスとかいろいろあります

我々のチームが1周だいたい38秒台

速いクラスになりますと36秒台に入れてきておりました

ここまで速度差がありますと何をやっても歯が立ちません



特に3コーナーから先の急な上り坂がつらい

ホンダエイプを使用していた頃は100ccエンジンとはいえ、車体がものすごく軽かったのです

80kgくらいでしたか

それが今のGSX-R125ですと車重が120kg超えてるんです

エンジンはそれなりに力出てるんですけど、車重増加分の影響の方がでかすぎてですね

なかなかしんどい


まあ、同じ125インジェクションクラスの他チームのタイムを拝見するに、このクラスではどこも似たようなもののようで

かといって悪いことばかりではありませんで、「重い」ということは「頑丈」ということでもあるのです

エイプやNSFのいわゆる「ホンダ縦型エンジン」はもともと6馬力程度のビジネスバイク用として開発されたエンジン

コンパクトで軽いんだけど、あくまでも設計上想定した数字は6馬力

これをあれやこれやいじって16馬力とかまで持っていく

具体的に言うと使うエンジン回転数をどんどん上げていくわけです


エンジンが軸を回そうとする力を「トルク」と言いますが、これは基本的に何をいじってもあまり変わらないというかエンジンの排気量でほぼほぼ決まってしまいます

エンジン出力、とかパワーというのはこの「軸トルク」に「回転速度」をかけた物

同じ力でも時間あたりたくさん軸を回せればその分「たくさん仕事ができる」

エンジン出力のことを「仕事率」って言ったりもします


で、8000rpmあたりで6馬力を発生するビジネスバイク用エンジンに、あれやこれや手を加える

具体的にはエンジン内部をより多くの空気が流れるようにキャブレターやマフラーを交換し、シリンダーヘッドと呼ばれる部品をまるごとヨシムラやキタコなどの社外品に交換してしまうわけです

毎分8000回転くらいで使ってねというエンジンを14500回転くらいまでぶん回していく

このエンジンは1本のカムシャフトからシーソーのようなアームを介して給排気バルブを駆動するSOHCという形式でして、いろいろと駆動する部品が多い

で、14500あたりでカムの回転にアームやバルブが追従していけなくなり、ジャンプするようになります

エンジン内部では餅つきのように上下するピストンとそれにタイミングを合わせて給排気バルブが開閉しているのですが、バルブがジャンブするとピストンとぶつかってエンジンが壊れます

それこそ内部が木っ端微塵


特にヨシムラのヘッドはパワーをギリギリまで絞り出すためにピストンとバルブの隙間が0.1ミリとか0.2ミリとかしか無いのです

軽くてパワーは出るのだけど、余裕がない

ちょっとでも限界超えて回すとその場でエンジンがお亡くなりになります

軽くて速いけど脆い

それがホンダ縦型エンジン



対して今現在運用しているスズキGSX-R125エンジンはと言いますと

もともとは東南アジア向けに販売されていた150ccのスポーツバイク向けエンジンを日本国内向けに125ccにサイズダウンした物

150ccの出力に耐えるべく設計された各部はもともと頑丈になっております

吸気、排気のバルブそれぞれに専用のカムシャフトを備え、ダイレクトにバルブを駆動するDOHC方式ですので高回転にも強い

毎分12500回転あたりまでで使ってね、という想定のようですが、どうやら16000回転超くらいまではもつ模様

完全なノーマル状態で17馬力くらいでしたかね

マフラー換えて、燃料供給量調整して、正確に測定はしてませんが19馬力くらいは出てるんじゃないかと

ホンダ縦型よりはパワー出てるはずなんですよ

ただ「重い」



無い物ねだりしてもしょうがないのでね

手持ちのカードの中で工夫して勝負するしかない

重くて頑丈なバイクでどうやって戦うか、って考えたら「安定性」で勝負するしか目が無いわけですよ

転倒やマシントラブルなどを起こさないように、とにかく淡々と走る


ウサギとカメで言ったらカメの方

まあいつもどおりのウチの戦い方です



第2ライダー舟超氏、第3ライダーの私と継いでちょうど2時間

順位は総合で7位とか6位とかのあたりをウロウロと



このあたりからレースが動き始めます

ある程度コースや路面のコンディションに慣れた各チームがプッシュし始める

疲れて集中力が切れるライダーさんもおられたでしょう

11:34 転倒車両の救護のために最初のセーフティーカーが出動

セーフティーカーに先導される形で各車ペースダウン

この後、11:52 12:19 14:18 と立て続けにセーフティーカーや救急車が出動するような大きな転倒などが続きました



この夏のオリンピックに関わる長期休業の間にこちらのショートサーキットでは大掛かりな路面の補修が行われたのだそうです

各所にあった大きなギャップが無くなり、非常に走りやすくはなったのですが、その分走行スピードが上がったのかどうなのか

従来ですと最終コーナーでの転倒が多かったように記憶しておりますが、今回は特に第2、第3コーナーでの転倒が多かったように感じます

第2コーナーは下り坂の逆バンクコーナーのアウト側にすぐコンクリートの壁がありまして、転倒するとかなり酷い目に遭うかなり危険な場所

私個人も7年ほど前に背骨5箇所の圧迫骨折と右足首の粉砕骨折を同時に負うような大転倒をここで喫しております


まあ普通にトラウマにはなってますよ

いくらタイム稼げるからってここで限界プッシュしようとは絶対に思えないもの

このコーナーに突っ込むたびに脳裏にフラッシュバックしてくるあのときの恐怖で自動的にスロットルが緩む

病院で1ヶ月寝たきりになったアレは7年経っても忘れられない

私は頭のネジが抜け落ちたヒャッハーさんではなく、草レースが好きなだけの普通のオッサンですからね

怖いものは怖いんです

富士ショートサーキットの第2コーナーは怖い



で、その転倒騒ぎというかなんというか

レース開始から2時間、全体の1/3を消化したあたりから、我々よりも前を走っていたチームが転倒したりエンジンを壊したりして脱落していくわけです

我々がペースを上げたわけではなく相変わらずの38秒台

我々の前を走っていた36秒台のチームが転倒やエンジントラブルで脱落していったがために、何もしていなくても我々の順位が勝手に上がっていくのです



これが「棚ぼた効果」




とにかく淡々と走り続けることで、レース開始4時間でとうとう総合3位まで浮上


ここで我々にもトラブル発生



他のチームの方が撮ってくださった私の写真ですが、右足の下、後輪の前あたり、サイレンサーを車体に固定するためのバンドがずり落ちているのがバッチリと写っております

振動による固定ボルトの脱落

この直後のライダー交代のときに運良く気がつくことができまして修復しましたが、ここで3分ほどのロスとなりました

総合順位は4位に転落



それでもそのあとも変わらずやはり淡々と走り続けまして



総合4位、125インジェクション車クラス優勝で無事完走することができました







我々の、いつもどおりのいつもの勝ち方













耐久レースでは「歩みを止めない」のが一番速い

「速い」より「遅くない」方が勝てる

「速いけど転ける」より「遅いけど転けない」の方がトータルでは速い




我々のチームには世間様に比べて特別ずば抜けて速いライダーがいるわけではありません

若い頃から長くレースやってきたレース巧者がいて、ウチのチーム内ではというものさしの中ではそこそこ「速い」奴がいて

それが頑丈が取り柄の重たいマシンでえっちらおっちら走ってる

ただそれだけのチーム

「一発逆転の必殺技」みたいなものはなにもありません





我々が富士の「ミニろく」に参加し始めて11年くらいですかね?

その間、「勝った」レースと言ったらまず今回のようなウサギとカメ的なパターン

クラス優勝、総合3位あたりがウチのチームの定位置と言えば定位置




私はこれで良いと思ってる

これが我々の戦い方







実は昨年末のレースから最近、ウチのチームメンバーの大怪我が続きまして

ちょっといろいろ思うところはあったんですよね



で、今回のレース後に仲間内の連絡掲示板にこんなこと書いたんですよ


今さらながら思うんですが

NORYにしろ舟超さんにしろ、限界ギリギリまで削らないで8割ペースで走ってた今回みたいなレースでもうちは勝てました

リスクとリターンのバランスというか

動きが読めない初心の方のインに飛び込んで0.1秒単位で稼ぐのもアリかもしれませんが、予測できない動きに巻き込まれて転倒したら30分とかロスになるわけで

初心の方のかなり後方で様子見してる俺の後ろから突っ込んできた速い車両がそのままからんで転倒とかいうケースを今回もまま見かけました

そういうトラブルは我々のロスにもなるでしょうけど、それ以上にそういうトラブルに見舞われた初心の方ってもう二度とレースに出てこなくなるだろうな、みたいなことを考えるんですよ

「勝てなかったけどレース楽しかった」って初心の方に思ってもらえれば次も参加しようってなるだろうけど、「ぶつけられて怖かった」で終わったらもう次がないというかあのレースイベントそのもの衰退につながると言うか

一緒に走ってくれる人がいなけりゃレースなんてできないわけで

ウチだってくぼしは例のあの事故でショートサーキット怖いからヤダとかトラウマになっちゃったし(注:知っている人は知っている車両炎上事故)

にのみ氏だってトラウマ抱えかけてるし


初心の方を「邪魔だ」て言うんじゃなくて

ぶつけたりライン塞いだりびっくりさせるような走りをしないように

初心の方に「レースって楽しいなあ」って言ってもらえるような気遣いのできる走りをしたいなと改めて思いました今回のレース


NORYが突っ込まれて救急搬送されたときに「てめえらみたいなシロートは二度とレースに出てくんな!」って罵倒されたのがトラウマになってますね (注:8年くらい前に遭ったアクシデントのこと)

あんなことを口にする「ベテラン」にだけはなりたくないと強く思いましたし

そんな「ベテラン」目線の走り方で初心の方に怖い思いさせてまで稼ぐ0.1秒にいったいどれほどの価値があるのか?とも思うわけです



たぶんね

そんなカリカリやらなくてもちゃんと勝てるんですよウチって

他のチームの初心の方に「ああ、楽しかった!また次回も参加したい!」って言ってもらえるような

初心の方をサポートするような走り方ができるようになりたいなあって





我々「烏賊娘レーシング」は学生時代のバイクサークル仲間の集まりです

大学卒業して25年とか経って、「たまに集まって酒飲むだけじゃ芸がないわな」ってんで始めた活動です

言うなれば「オッサンの飲み会」の「代替品」なのであります



ウチのチームの者が楽しく一日を過ごすのと同じように、他のチームの方にも一日を楽しく過ごしていただきたいと考えております

「ミニろく」に参加し始めた初年度はイン側からベテランにぶつけられて転倒、などということもたくさんありました

「ぶつけられるのが嫌ならレース出てくんな」「シロートはレース出てくんな」そんなことも言われました

本気でやっておられる人たちからしたらぶつけてでも前に出るのは「アタリマエ」のことなのでしょう




我々にとってはたまの休日を一日楽しく過ごすために参加している草レース活動でありまして、命のやり取りまでして順位を争いたいわけではありません

そういうゆるい人たち、初心の人たちが混ざって走るレースにおいては「ぶつけてでも前に出たら勝ち」みたいな考え方はちょっとどうかなと疑問に思ったりもするわけですよ

そういうガチのやりとりは全日本とかそういうプロの舞台でやってもらえると、ね?




嫌な思いもたくさんしました

その上で私はこう思うのです

「ぶつけられるのが嫌ならレースなんて出てくるなよ」と言われたときのあの気持をいつまでも忘れたくない、と

今年になって初めて草レースに参加しますと勇気と興味を持ってくれた初心の方に、あのとき私が感じたのと同じ感情を持ってほしくないのです

我々の今年のレース活動は今回をもって終了となりますが

来年、また新しく「草レース挑戦してみようかな」、と勇気と興味を持ってくれる初心の人たちにも、やはり同じような嫌な思いはしてほしくない








バイクと向き合う

タイヤや路面と向き合う

サスペンションと向き合う

自分自身の肉体と、それを操作している脳内の制御プログラムと真っ向から向き合う

学生の頃から稽古を続けている武術と根本は同じ





40代の10年間に二回の入院レベルの大怪我

全身まんべんなく二十数箇所骨折しました

自分の体なのにまともに動かせない部分もできてしまいました

「だから辞める」じゃおもしろくもなんともねえやな

50歳

自分の生き様を諦めるにはまだまだ早い





大怪我をしたなら、その後遺症を抱える体をどうやって制御するかを考える

それは

本当に難しくて

なかなかうまく行かなくて

でもやりがいがあって

ものすごくおもしろい




「公道最速」とかああいうのが嫌い

みんながルール守ってゆっくり走ってる中でルール無視して走っておいて「俺は速い」とか



サーキットは良い

自分自身が思っているほど自分はすごくないってことを情け容赦なくとことん思い知らせてくれる




初めてのサーキットをおっかなびっくり走ってる人たちがこんなおもしろいものを「怖かった」っていって投げ出すのはもったいないと思うのですよ

遊園地のアトラクションとは違って、「怖いけど絶対に安全」なんて都合の良いことは決してありません

怖くて、痛くて、辛くて

それでもやっぱりバイクっておもしろいと思うから




同じコースを一緒に走る初心の方達にも「ああおもしろかった」って思って欲しい

私はそう願っております















今回、ウチのチームの舟超氏がタイヤウォーマー用の発電機使ってピットで温かいたこ焼き用意してくれてました



最高気温8℃

走っても走っても体が温まらない

むしろ走れば走るほど体が冷える

そんな中で、ピットに帰ってきて口にする温かいたこ焼きがとにかくありがたくて

冷凍のたこ焼きを電気たこ焼き器で温め直しただけという簡単な品だったんだけど

温かい食事のありがたさってのが冷えた体に本当に染みました






草レースってのはリザルトとか関係なく「ああ〜今日も一日よく遊んだわ〜」って最後に大きくひとつ伸びができたらそれで優勝なんじゃないかと


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